君想論 〜2人のサヤカ〜
―――…………




今から10年くらい前の話。


今となっては殆ど記憶には残っていないのだが、オレにも父さんと母さんがいたことを覚えている。


父さんは身長が高かった気がする。

小さい頃、だからによく肩車をして貰ったことが記憶にあるから、恐らくアレが父さんだったのだろう。

仕事に熱心で家族想い、休日にはオレを連れて近くの公園で一緒に遊んでくれたらしい。


母さんは髪がとても長かった気がする。

今でも髪の長い人を見ると、母親のような……何か懐かしい印象が自然と湧いてくる。

とても温かく、優しい……オレは母さんが大好きだった。


2人共とても教育熱心な良い人達だったらしい。

両親との思い出話をばーさんから聞いたことがあるが、正直、自分の記憶の中に両親の存在が殆ど抜け落ちていることが少し寂しくも感じる……





オレが小学校に上がる前、確か5才の頃だ。

その日は両親の結婚記念日だったらしい。

ずっと前から計画していた日帰りの温泉旅行に2人は出掛けることになっていた。

オレも一緒に行きたいと泣きながら親にせがんでいたらしいが、ばーさんの助言で夫婦水入らず2人だけの旅行にするべきだと、当時園児だったオレを説得していたらしい。

オレは両親のためだと思い、じーさんとばーさんの家で2人の帰りを待っていた――………






そこからの記憶は殆どない。

多分、ショックな出来事だったもんだから、オレが本能的に記憶から抹消した空白の時間だ。




気付いた時には、両親はこの世からいなくなっていた。


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