勝手に好きです!
それに、素敵な人だと思う。
私は魚を三枚に卸しながら、少し笑う。
お母さんが亡くなったのは5歳の時。年を重ねる事に薄れていく記憶、今は声を思い出す事さえ出来ない。だけど、大好きだった。優しくて、温かった。
蓉子さんはお父さんとお母さんの昔からの友人で、離婚理由は知らないけれど、お母さんが生きている時から何度か食事をした事があったから傍にいる事に抵抗は少なかった。
だけど、なかった訳じゃない。
『お母さん』と呼べない私に、蓉子さんは言った。
『真夏ちゃん。『お母さん』は一人だけよ。私はそれで良いと思ってる。家族になりたい、だなんて三流ドラマみたいな台詞は使わないわ。白々しい。クソッタレだわ』
その笑顔に嘘がなくて、つい笑った。
『友達になりましょう。その内、私に依存して頂戴』
にっこり、艶やかに笑った蓉子さんの言葉は子供ながらに度肝を抜かれたものだ。