勝手に好きです!
「あ、そうだ!」
蓉子さんが思い出したように声を上げて振り返る。
「刺身もあるし、今日はお客も呼ぶからそのつもりでいてね」
ハートマークを飛ばした声。誰、と聞く前に蓉子さんが私にウインクしたから聞きそびれた。
「僕は今日撮影だよ?」
ハルが面倒くさそうに返す。ハルは家族以外にはかなり適当だ。多分撮影を口実にその妙な会合から抜けるつもりなんだろう。
「今度にしてもらいなよ」
ん?珍しくハルが至極嫌そうにそう告げる。回避じゃなかったの?
「あんたは別にいなくても良いわよ」
蓉子さんがシッシと長い指先で払う。
「僕だって居たくはないけどね。何だか嫌な予感がするから」
眉を曲げるハル。その仕草も王子。
「何訳の分からない。とにかく決まった事だから。あんたは撮影でも何でも行ってきなさい、じゃね」
蓉子さんは手をヒラヒラと振るとお父さんと腕を組んで出て行った。