チャンピオン【完】
「詩、マグマの腹にミドルキックして来い♪」
「えっ!? 無理。苦しそうです... ?」
「タランチュラはそう言うエグい技なんです☆ 早くしないとマグマ死んじゃうよ♪」
そうなの? でも可哀想だからしたくない。
私が躊躇している間に、痺れを切らしたミコトが貴丸の身体を蹴り、その拍子に足のロックが外れた。
なんだどっちにしろ解いてやる予定だったのか。
支えを失ったマグマはそのまま、リング下に直落下。
体勢を立て直す力が残っていないらしく、実況席のそばのフェンスが観客に向かってなぎ倒された。
追いかけて降りる貴丸は余裕で笑っている。
フラリと立ち上がったマグマの頭を後ろから掴んで実況席に叩きつけ、そのまま雑巾でも使うかのように机上をスライドさせた。
マイクで増強された、机の割れるとんでもない音が会場にいる者の耳を劈(つんざ)いた。
圧倒されてぼんやりしていた私に、兄貴が言った。
「詩ぁ! ミコトが暇だって呼んでるよ☆」
いきたくないけど、仕方ない。