チャンピオン【完】
見たかねーよ、と思ったが、私はウンと頷いた。
「じゃあ、行こう。映画館の場所わかる?」
それなら駅前だ。
そんなことも知らないのか、と呆れかけたが... そういえばこいつ、アメリカから帰って来たばかり、浦島太郎なのだった。
その間に地域再開発があって、この街の様子は一変した。
「なんかこの辺り変わりすぎてて、走ってても道迷いそうになるんだわ」
「何年、アメリカ行ってたの?」
「5年。あっという間だった気がしてたんだけど、こうやって見ると時間は経ってるもんだな」
ふぅん。
会話らしい会話が成り立ち、私は歩きながら彼の横顔を見た。
「アメリカ、楽しかった?」
「... 行きたくて行ったわけじゃねーし」
その会話の内容に無表情が少し曇った気がした。
あんまり聞いてはいけない事なのかもしれない。
小さいころから大勢の大人に囲まれてきた私、顔色を読むのは得意だ。