チャンピオン【完】
5年前、うちは突然貧乏になった。
それまで私は私立の小学校に通っていて、一軒家のおうちは大きくて、ちょっと良い生活をしていたんだと思う。
綺麗なママはもう亡くなっていた。
時々テレビに出たりする芸能人みたいな強いパパと、優しいお兄ちゃんがいて、もうすぐ中学生になるところだった。
それが突然、練習場のあるビルに家族ごと引っ越すことになった。
あの頃の私にはわからなかったけど、たぶんあの事件の後には、とてもお金が掛ったのだ。
小さい頃ママに連れられて来た時にはもっと人が溢れていたはずの合宿所は、住むことになってみた時には、閑散としていた。
住み込みの練習生の数も相当減っていた。
同じ中学校に行くはずだった友達とも離れ離れ。
安心できるはずの家には、怪獣みたいにデカくて怖い顔したレスラー連中。
パパも、その頃はもうパパの仕事を手伝っていた兄貴も毎日忙しそうで、私の寂しさをわかってなんてくれない。
環境の変化について行けなくて、毎日泣いた。
小学生の私にそんな事情を教えてくれる人はいない。