チャンピオン【完】
だが、本当に貴丸は教える気がないようであった。
私は地味に片腕立て伏せを繰り返している貴丸の横のマットの上を、ウダウダと転がった。
「コブラツイストのやり方教えてよ」
「お前他に知ってる技の名前ないだけだろ」
了くんが教えてくれたジャーマンスープレックスならわかるが、たぶんそれは貴丸には禁句だ。
最後には邪魔だからあっちへ行け、と言われた。
ムカつく。
兄貴もおらず、誰からも構ってもらえない私は、練習場のはじっこに隣の部屋からミニテレビを持ち込んで、それに昔誰かが冗談で買ってきたらしいなんとかブート・キャンプをセットした。
「ワンモアセッ! 」
始めてみれば、意外に楽しい。
隊長のかけ声に合わせ、リズムにのってきた。
元々身体を動かすことが嫌いではない。