チャンピオン【完】
起き上がるのと、降りて行くのと同じ速度。
「で? なに考えてんだって?」
暇そうな私に気を使ったのか、話しかけて来た。
この速度で腹筋しながら、この余裕。
化け物め。
丁度いいから、前から気になっていた事を聞いてみる。
「... あんたアメリカ行く前に、私に会った事あるの?」
「ああ、覚えてるのは2回」
貴丸は起き上がってから後ろ手をつき、話しだした。
「最初はプロレスなんて辞めちまおっかなってくらい落ち込んでる時に、ガキのお前に慰められた。
腹立ったから、辞めるのは止めた」
それは兄貴の話と同じような気がするが、感想が少し違ったようだ。
天使が出てこない。
「それからお前のお袋さんが亡くなって... 誰もお前をつれてこなくなった。
俺もずっとそんなこと忘れてたんだけど、次に会ったのが日本発つ日だ」
「それなら私覚えてるはずだよ。12歳だもん」