桜歌
力なく笑う私の顔を見た明里は、
もどかしそうな顔をして
深い溜め息をついた。
「好きって伝えなくていいの?」
「…いいの、って?」
「私は今からでも遅くないと
思うよってこと」
気持ちを伝える気なんて
初めからない。
陽介先輩に迷惑をかけたく
なかったし、フラレるのが
目に見えていて恐いから。
「……いや、いいの」
「また迷惑かけるとか思ってる?
気持ちを伝えるのに迷惑とか迷惑
じゃないとか、関係ないと
思うよ。私は」
「…う~ん、でもいいや。」
ごめんね、ありがとう。と
付け加えると、明里は困ったように
眉を寄せて口角を上げた。
私の答えに諦めを感じたのか、
明里はもう一度深い溜め息をついて
外にある桜の木に視線を移した。
「…1年って早いね、去年は私達が
入学して来たのに」
「もう2年生だね~」
「やだなぁ、早すぎるよ」
そんな会話をしながら
私と明里の間に流れる静かな時間に
身を任せる。
「美緒ちゃ~ん!明里ちゃ~ん!」
そんな時、背後から
私達の名前を呼ぶ
ふんわりとした可愛らしい声が
耳の中で響いた。