灰色の羽
【第一章】


また雨だ。


一年で一番私が忌み嫌う季節、


梅雨。


毎日が雨。



あまりの雨量に今年ばかりは空が壊れたのではないかと思う。

湿気で髪がまとまらない、服が濡れる、靴が汚れる、タバコに火がつかない。

瞬時にこれだけの理由が思いつくのだから、一日かけて考えれば相当量の雨のデメリットが思いつくと思う。

雨にメリットなんてない。


もちろんもう私も子供じゃないから、この時期の水量の確保の重要性や農業へのありあまる恩恵を分からないわけじゃない。

けど、嫌いなものは嫌いだ。


嫌いな物は総じて私をイラつかせる。

雨然り、バカ然り、子供然り。

そして、不幸とは重なるもの。


そんな私の嫌いなものからの、バカからの着信がきた。



「はぁ…」

雨、バカと嫌いな物が二つも揃ってしまった。最悪の一日だ。


「はい?」

「マキ!いまどこにいる?」

バカは総じて声がでかい。

「なぁ?聞こえてる?」

バカは気が早い。


「うっさい、聞こえてる、声でかい」

「いーから今どこだよ!」

こちらの発言は無視。


「声うるさいってば!いま駅から家まで歩いてる」

「そか!じゃあすぐ着くな!おまえんちの前に置いとくから世話してやってくれ!俺これからバイトなんだ!」

バカの会話は往々にして脈絡がなく、主語目的語の勝手な省略と、それ故の情報の薄利が多々ある。

「はあ?」

「あと!雨でずぶ濡だから風呂入れてあげてな!なぁ、マキ聞いてる?」

追加、助詞もきちんと入れない。同じ事をくりかえし言う。


「声でかい、うるさい、情報が足りない」

「それじゃ寒いよな…よし、これ着とけ!」

電話している相手以外とも勝手に会話を始める。

「じゃあマキ頼んだからな!バイト終わったらおまえんち寄るから!じゃあな!」

勝手に一人で自己完結して会話をやめる。


「はぁ…」

私は一つため息をついて携帯を閉じた。

わかっていただけたと思うが、いま挙げたのがバカの特徴である。
まったく枚挙にいとまがない。
< 2 / 40 >

この作品をシェア

pagetop