君の御影に見た滴
「あんた、あの姉さんと会ってるんやってな」


「あの姉さんって車輪のことか?」
 

僕が顔を上げると、麻は僕に向かってつばをはきかけてきた。


「売り女に名前なんていらん」
 

何のことを言っているのだろうと思った。


麻は車輪のことをそんな風に見ていたのだろうか。


「毎日、男にいっぱい囲まれて良い気になってる売女のどこがそんなにええねん」
 

車輪が下賤な奴らに囲まれてからかわれ、困っている様子が麻には良い気になっているように見えるらしい。それは女としての嫉妬だろうか。
 

麻だって歳相応の可愛らしい顔立ちをしている。


だけど、まだ子供だから車輪と違って色気づいた男どもによってこられるわけではないのだ。


麻だって車輪の歳になればそのくらいの男はついてくるだろう。


しかも車輪の場合とは違って、からかい半分で来る者ばかりではなく、れっきとした取り巻きがつくと思う。
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