君の御影に見た滴
「女あ!」
 

少女に向かって行く刃物を持った女に車輪は大きな声を張り上げた。


その声は家の中にいた僕にも聞こえた。


僕が窓から外を見下ろすと、人がいるとは思っていなかったのだろう、襲いにかかろうとしていた女は体を震わせて振り向いた。


「その影、踏うんだ」
 

僕が夜の月の下で異国の者と分かったくらいだ。


夕焼けで真っ赤に染まった車輪を見て、この差別社会を生きるその女が車輪を異形の者と思ってしまわなかったわけがない。


「体がピクリとも動かなくなった」
 

後でその通り魔はそう言っていたらしい。


車輪に影を踏まれたら何かが起こる。


その女は巡回していた警察に捕まり、僕は恋惑う。


車輪の影踏みは魔に似た力があるのかもしれない。


それは混血の美しい女が持つ、計り知れない力。
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