君の御影に見た滴
顔にそんな傷を負っても、このテレビもない家が多いような国で、テレビを持つ裕福な麻にいつも取り巻きはいた。


今。目の前にいる女二人もそうだ。


だけど、麻を囲むのはいつもテレビを見たいがためについてくる靴もボロボロの女子供で、ある程度の歳というか、麻と歳が近ければ近いほど男は麻の顔もまともに見なかった。


かつて、好意をよせていたように見えていたのに、その事件の後に、あからさまに顔を逸らすようになった男に麻が持ち前の負けん気でモンクを言うと、男は笑って言ったのだそうだ。


「だって、あんたはもう可愛くなんかないやんか」


と。


「よう人前に出れんな」


とまで言ったのだそうだ。その時はさすがの麻も、僕に泣きついてきた。


「何でやの?私、全然わるくないやんか」
 

悔しさで顔が赤くはれて、バッテンがくっきりと浮かんでいたけれど、その傷跡を僕は醜いとは思わなかった。


可愛らしい顔立ちをしていたから狙われたのだ。


そして、そんな顔になっても帽子一つかぶらずに顔をあげて外を歩く麻は僕には眩しいくらい尊敬出来る人だった。
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