君の御影に見た滴
「僕はどんだけ経っても僕のままや」
 

そう言う僕に、車輪はただ、分かっているとだけ言った。
 

身体測定があって、車輪の家に行った時も、車輪は窓からどこか遠くを見ていた。


「十センチも伸びたんやぞ」
 

喜ぶ僕に、子供やねえと車輪は見もしないで言った。
 

その夜、父が家にいた。


働きづめで、めったに家族がそろうことがない僕の家ではめずらしいことだった。


「喜べ。お前と麻の婚約が決まったぞ」
 

豪勢な料理を前に父は手を叩いた。


「麻とお前は昔から仲が良かったしな。決めてやったんや」
 

僕の家で父に意見することなんて許されなかった。


だけど、僕ははっきりと言った。


「僕には車輪がいます」
 

それを聞いた父の顔が真っ赤に膨れ上がった。


「あの女は結核や。お前、うつるぞ」


「車輪は結核なんかやありません」
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