君の御影に見た滴
その頃から車輪が見かけるたびに男たちに囲まれていることが増えた。
車輪は相変わらず嫌そうにしていたけど、奴らはときどき、車輪を羽交い絞めにした。
その時、僕は思わずその中に駆け込んで行ったけど、猛者たちに突き飛ばされてしまった。
「ガキが」
そう言ってつばを吐きかけられたけど、その男の耳元で、
「あほ、坊ちゃんや」
と言っているのが聞こえた気がした。
たしかにこの辺りで僕は坊ちゃんと呼ばれている。だけど、こんな悪そうな奴らにまで坊ちゃんと言われるのは不自然な気がした。
でもどこが不自然なのか分からない。
それから、僕が割り込むと、車輪の周りから男どもは簡単に離れて行くようになった。
それは僕が少し大人になり、体格も良くなったからかと思ったけど、金持ちの坊ちゃんを敵にまわしてはいけないという浅はかな考えからかとも思えた。
僕は自分の力で車輪を助けることが出来ているわけではないということが悲しかった。
「車輪。僕といたら大丈夫やから、これからもずっと傍にいてや」