君の御影に見た滴
車輪は僕の体を抱きしめて、


「一緒にいたいけど、たぶんずっとは無理や」


と言った。


「何でや」
 

こんな町中で抱き合っても僕はもう平気だった。


僕と車輪の仲を町中の人に見せつけてやろう。


そんな風に思っていた。


「だって耕造は麻と結婚するんやから」
 

前にも言われたことだった。


どうして車輪は僕と麻が婚約を無理強いされているということを知っているのだろう。


「みんな知ってることや。私はそれまでのつなぎ役でしかないんや」
 

僕の肩に涙のシミが出来ているのが分かった。


そんなことはない。


父は僕が車輪の話をして以来、麻の話をしなくなった。


きっと理解に苦しむ息子の行動に頭を悩ませたまま、放置しているのだろうと思っていた。


僕は自分が父の意見を封じることが出来たと思い込み、いい気になっていたのだ。


父はそんな簡単な人間ではなかったのに。
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