君の御影に見た滴
僕が大人になる前に必死で愛を訴えていたのだ。
 

僕は何も分かっちゃいなかった。


ただ、車輪に好きな気持ちを伝えていれば二人は幸せになれるのだと思っていた。


「その影踏うんだ」
 

突然、男たちの間で車輪が大きな声をあげた。


車輪を助けないといけないと思って起き上がった僕の体はその言葉とともに動かなくなってしまった。


「耕造は傷つかんでいいねん」
 

車輪がそう言ったと思うと、男たちはいっせいに懐に隠し持っていた棒切れで二人をめった打ちにし始めた。


それでも体が動かない。


僕は影を踏まれている。


そう思うと動けなかった。


思い込みだったのだと思う。


車輪に影を踏まれると動けなくなるということが。


それを知っていたから車輪はそう言った。


僕が恐怖で動けなくなったのだと気づいてしまわないように。
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