君の御影に見た滴
体を拭きたいのだと車輪は起き上がって手ぬぐいを僕の前にちらつかせた。


「見たらあかんで」
 

古ぼけた桶に水をいっぱいはってくると、車輪は手をぐっと握って僕を威嚇した。


しかたがないので、僕は車輪の母親と一緒に夕食の材料の買出しに出かけた。
 

坊ちゃんが一緒ならと野菜をまけてくれた八百屋は、僕を哀れそうに見ていた。


「坊ちゃん、今のうちにようけい好いた人と一緒におりや」
 

そんな言葉をくれた。
 

帰ると、母親は台所に行き、僕は車輪のいる部屋に戻った。


まだ裸でいたらどうしようと思って、念のため声をかけてみたけれど返事はない。


あの体でどこかに出かけたのだろうかと思ってふすまを開けると、車輪は桶の水の中に顔を突っ伏していた。


「またそんなとこの水飲んで。ちょっと待てば帰ってくるやんか」
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