噛みつくようなキスをして
「ふふっ、大丈夫よ。アリオン。クレアは意外と気が強いから。」
そして、そんなアリオンの様子を確認すると、レティシアは小さく笑いながらそう言った。
本来ならば男爵令嬢たるレティシアが応対をするべきだが、実際はクレアと呼ばれている少女が代わりを務めても問題はない。
何しろ、クレア・スリニエルはアリオンの想い人である以前に、レティシアの妹であり、れっきとした男爵令嬢なのだから。
「まぁ、そういうことで、私はこの手紙を届ける準備をしなくてはいけないから、引き継ぎの仕事は任せたわよ?」
「……はい。」
しゅん、としたアリオンを横目に笑いを堪えながら部屋を出るレティシア。
両想いのくせに、お互い言い出せない彼らは彼女にとって恰好の遊び道具だった。
「……恋愛、か。」
しかし、ゆっくりと扉を閉めて廊下に出たレティシアは手元にある返事の手紙を見て、笑うことをやめた。
あまりにも彼らと違い過ぎる自分の境遇を複雑に思いつつ、少しだけ恋愛というものに憧れを抱いて…