噛みつくようなキスをして
そして、とにかく彼は村民達から詳しい話を聞きに行くために、屋敷の正門前から続く道を歩いていた。
いや、正確には歩かせていた、と言ったほうが正しいだろう。
何事もまずは情報収集から、が精神の彼はスリニエル家の馬小屋に休ませていた自分の愛馬を持ち出して、屋敷から一番近い村へと向かっていたのだから。
「ロズンジ。久しぶりに飛ばすか?」
その青年の言葉に自分の名を呼ばれた馬は嬉しげにいななく。
全身漆黒でありながら、額に菱形の白い模様が入ったこの馬は青年が軍に入隊した時に両親から貰った愛馬だった。
かれこれ青年と10年近い付き合いであるこの馬は意外と賢く、かなり人間臭いところがある。
そのためか、時折ロズンジはまるで彼の言葉が分かるかのような仕草をする。
そして今も、全力疾走をする準備は整った、と言わんばかりに鼻息を荒くしていた。