噛みつくようなキスをして
Episode.1 始まりの日
「やっぱり、この手しか無いわよね。」
自然豊かなベルトリード地方にある小さな屋敷の住人、レティシア・スリニエルは一枚の手紙を見て、深いため息を漏らした。
いや…正確には、彼女宛てに届いた求婚の手紙、と言ったほうが正しいだろうか。
――この屋敷とベルトリード地方全域を治めるスリニエル男爵家。
その跡取り娘である彼女の容姿は十人並みにも関わらず、数多くの求婚の手紙が寄せられていた。
唯一の取り柄と言えば、その緩く巻かれた栗毛色の髪ぐらいだが、それも格別美しいというわけではない。
ただ、爵位欲しさに彼女へと求婚する者が後をたたなかっただけのことだった。