噛みつくようなキスをして
レティシアが手にしているのは、一番条件の良かった商人からの求婚の手紙。
義父となるスリニエル男爵への援助は勿論のこと、結婚式の費用はこちらが出す、とあった。
その上、子供をつくるつもりはない、と書いてあることも考慮して、レティシアはこの縁談を自ら選んだのだった。
「私が我慢すれば、この家は救われる。そうでしょう、レティシア?」
そう小さく呟いたレティシアは、机の中から羽ペンと紙を取り出すと、ゆっくりと承諾の紙を書き始める。
正直、父親と大して変わらない男との結婚など嫌に決まっている。
だが、これも家のためだとレティシアは自分に言い聞かせていた。