噛みつくようなキスをして
先見隊、といえば、王室警護軍から選ばれた軍人達が陛下の行き先を偵察するために派遣された隊。
つまり、そもそも王室警護軍に入隊出来るような格上の人間達の相手は流石のアリオンにも荷が重かったようだ。
そして、それを把握した少年は目の前の男爵令嬢に仕事を押し付けたのだった。
「……アリオン。貴方、なかなか世渡りが上手いわね…きっと、出世するわよ。」
溜め息と共に吐き出した言葉に少年は「すみません…」と申し訳なさそうに微笑む。
本人に悪気はなさそうだが、レティシアにとって軍人達の相手など、面倒以外の何物でもない。
他の下級貴族の令嬢が聞けば驚くかもしれないが、上級階級の人間と一夜限りの恋愛すら彼女にはする気がなかった。
「……とりあえず、引き継ぎの仕事をしてくれるなら、私は他の仕事をするわ。」
そこでレティシアはこの少年を困らせてやろう、とひとつの提案を口にした。
「軍人の方々のお相手は…そうね。クレアに頼みなさい。」
その言葉を聞いた途端、アリオンはあからさまに悲しげな表情を浮かべてる。
それはまるで何かを盗られてしまった仔犬のような沈み具合だった。