いばら姫と王子様 ~AfterDays~
『退院するまでは芹霞に手を出さない』
櫂の言葉に従ったのは、玲への牽制だ。
俺ら2人が手を出さないと言っているのに、無理矢理手を出すようなお前じゃねえだろ。
かなり渋々だったけどな。
櫂はよく玲に妬かないなと思っていたら、
「ねえ、櫂。絵文字を入れようよ~」
そう言った芹霞は、真新しい金色の携帯を指差した。
元々芹霞はメタルピンクの携帯を使っていたが、最後まで陽斗が大事に手で握りしめていたことを告げると、芹霞はずっと傍らに置いておいて欲しいと言った。
陽斗に渡した芹霞の携帯。
最後まで出ることがなかった携帯。
そして今も芹霞は、新しい携帯から電話をかける。
あっちの充電が切れるまで、きっとそれは続くんだろう。
――俺さ、芹霞ちゃんから使い方聞いてねえんだわ。
最後の最後までぎゃはぎゃは笑っていた陽斗。
あいつはあいつなりに、持ち主だけに向けられる"携帯電話"っていうものを大事にしていたんだ。
芹霞が『連絡を待て』と言ったから、最後まで嬉しそうに芹霞の連絡を待っていたんだろうな。
…あいつだけにかかる電話を。