いばら姫と王子様 ~AfterDays~
夢――。
"あのこと"のことか。
私を食らおうとしたあの異形の顔。
牙を剥き、私を"獲物"としてしか捕えていない、獰猛な肉食獣。
体が震えていうことが効かなくて。
逃げないといけないという本能だけは働いているのに、泣き叫ぶことしかできなくて。
そんな時あの娘は――
芹霞は私を逃がした。
自分が居残り、あれの犠牲になることによって。
あの子、ホラー映画を見るのでさえ大の苦手なのに。
架空の話なんて及びもつかない、現実の切羽詰まった本当の恐怖の中に居ながら、芹霞は必死に私を助けてくれたんだ。
私はあの時の芹霞を決して忘れない。
私には到底真似できない強さを持ったあの子は、何と2度も私を救いに来てくれた。
2度も、同じ恐怖に立ち向かったのだ。
「まだ夢は見ますけれど、克服しなければと思っています。
芹霞が受けた恐怖に比べれば、逃げてばかりいた私の恐怖など。
芹霞は――強いですね」
すると緋狭さんは、口許で笑いを作った。
「本当にそう思うか?」
「え?」
「弱い者程、あいつに強さを――救いを求める。
だがあいつは生憎、救世主ではない。
あいつが強いと思うなら、それは弱い自分が創り出した幻想だ」