いばら姫と王子様 ~AfterDays~
「なあ弥生。お前から見て、芹霞はどうなんだ?
正直に言ってみろ」
ああ、核心――ついてきてしまうんだ。
判っているけれど、私は緋狭さんの瞳から逃れられない。
「初めは――調子に乗っている子だと思っていました」
桐夏学園入学時。
何かと目立った美形をお供に平然と連れ、そして従者のように彼らを扱う。
「彼女は周りに媚びません。男にも女にも。それが仇になりよく校舎裏に呼び出されていましたけど、異様に喧嘩慣れしている。
何にも動じることなく、達観したように余裕さえ見えるのは、"彼ら"がいるが故に調子に乗りすぎているのだと」
私は軽く笑った。
「最初ね、芹霞を利用しようと思ったんです。芹霞は女の友達居ないし、男の友達だって紫堂くんや如月くんが寄せ付けようとしなかったから。
私、恋愛経験はかなり豊富で、それなりに自分に自信があったんです。
だけど紫堂くんは全然私を見もしない。それなら芹霞を利用して、あわよくば貰っちゃおうと。上手くいけば玉の輿……ですからね」
そう初めは、紫堂くん狙いだった。
「ははは。橙色の馬鹿犬ではないのか」
「馬鹿犬……ああ、如月くんですか。彼もかなり隠れファンが多いです。いつも厳めしい顔ばかりしてますけど、芹霞や紫堂くんに見せるあの顔が可愛いと、" ギャップ萌え"とでもいうんでしょうか、とにかく王道を好まない女の子や見た目のワイルド好きな女の子に人気。でも私、如月くんはタイプじゃないんで」
緋狭さんは愉快そうに笑い続けている。
「そうかそうか。お前ははっきりしていていいな。しかし、好まれるのは年増の香水女ばかりかと思っていたが、あいつも年相応の環境に居たのか。そうか、己の姿に気づかず己の姿に嘆いてばかりのあいつは、本当に可愛い馬鹿犬だ」
目許に涙まで滲ませてひとしきり笑いながら、私に続きを促した。