いばら姫と王子様 ~AfterDays~
「そうか……」
緋狭さんは、くしゃりと私の頭を撫でた。
不意に涙が零れ落ち、私は笑いながら涙を指で拭き取った。
「なあ、弥生。お前のいう、芹霞の"天然力"というものは、後天的なものなのだ」
「え?」
「あいつは……特に異性における好意は病的に疎い。別に男嫌いでもなく不信になっているわけでもない。それでも恋愛を"刹那"的にか捉えられず、永遠性を真っ向から否定する」
「昔、何かあったんですか、芹霞に……?」
思わず、緊張した声で聞いてしまう。
「芹霞の記憶を沈めたのは私なのだ。
妹が"永遠"に、それ以上のものに固執するのは――私のせいだ」
そう言った緋狭さんの顔は悲痛さに満ちていて。
「ははは。"あいつ"の代わりに溺愛されていたのだと坊が知ったら、どうなるだろうな」
自嘲気に吐かれたそれは、一体誰に向けられた言葉だったのか。
「それでも、芹霞を護る為に強くあれ。
そう願わずにいられぬ私は、芹霞を追い詰める1番罪深い存在だな」
彼女は、一体何を嘆いているのだろうか。
「何れ――時が来る。
弥生、お前は何があっても芹霞の友達でいてくれよ?」