いばら姫と王子様 ~AfterDays~
「うん。"せり"って、絶対ありえない呼び方されるの。あたし今までそう呼ばれたことないし、呼ばせたことがないのに!! 1人でいると、ぼんやりとだけど聞こえてくる時があるの。前はそんなこと絶対無かったのに」
せり、ね。
確かに僕の知りうる限りにおいては、彼女をそう呼ぶ者はいない。
「そういえば芹霞、僕と初めてあった時、"あたしを、絶対せりって呼ばないでね"って言ってたよね」
「そうだっけ? あたし嫌なのよ、呼ばれるならきちんと"芹霞"で呼ばれたい」
女の子はおかしな処に拘るものだ。
「あの声…本当に気味悪いの。玲くんは、幽霊っていうの…感じることが出来る?」
芹霞が首を傾げながら、僕を伺い見た。
可愛いその仕草に、僕は手に力を込めて…抱き締めたい衝動を堪える。
「こういう場所は澱んだ邪気が溜まり易いから、全く感じないとは言わないけれど。
だけど霊感がない芹霞に限って言うなら……」
櫂の血染め石(ブラッドストーン)。
闇を吸収し、同時に外部の闇を弾いてきた櫂の守護石が、芹霞から無くなったのが起因かもしれない。
闇の抜けた芹霞の身体には、闇の名残が彼女を暗黒に誘うのか。
闇属性が芹霞を引っ張り連れる前に、手を打つ必要があるのではないか。
今の芹霞の身体は、闇に対して無防備すぎる。
僕はその日、病室から出た櫂を追いかけ相談してみた。
すると櫂は少し考え込んだ。
最近、疲れが溜まっているのか櫂の元気がないけれど。
その時、僕は見てしまった。
櫂がほんの少し…口元を緩ませて微笑んでいたことを。