いばら姫と王子様 ~AfterDays~
玲くんは決して暇人ではない。
毎夜遅くまで隣室の照明はついていて、抑えた声で電話での長いやりとりも聞こえていた。
つまり、あたしの分だけ玲くんは忙しくなったわけで。
それでも常に"我慢"の人の玲くんは、疲れ知らずの笑顔を見せてくれていた。
そういう処が大人だなと思うけれど、ただ……夜、玲くんが去る間際、いつも何か言いたげにあたしを見たり、切なそうに顔を歪めることがあるのが凄く気掛かりで。
しかし聞いてもただ微笑むだけで、「退院したらね」と頭を撫でられただけ。
玲くんは、毎日の診察を始め、採血、投薬調節、血圧等計測に至るまで、医者として仕事は生真面目な程きっちりとこなす。
だけどやはりあたしも女の子だ。
場所が場所だけに、傷痕の触診というのは嫌だった。
下着をつけない乙女の胸を、玲くんに露出させて喜ぶ趣味もなく。
ぎりぎりの処でパジャマの裾を捲って、チラ見せするのが精一杯。
しかも、胸の谷間から左下に向け、斜めに伸びた15cm程の傷痕は、そのグロテスクな色合いといい、人様に見せられる代物ではなかった。
それだけのリスクを陽斗が冒し、更にそれだけの手術だったということはよくよく判っている。
だけどそれを思えばこそ、陽斗の犠牲の上で成り立ったこの傷痕が、赦されない罪の証のような気がして、あたしに強い罪悪感を抱かせた。
傷痕は――
忘れてはならない罪の証。
"生かされた"あたしは、唯1人でその代償に罪を贖い続ければいい。
ずっとずっとあたしは1人で。
そう思っていたのに――。