いばら姫と王子様 ~AfterDays~
 
玲くんは決して暇人ではない。


毎夜遅くまで隣室の照明はついていて、抑えた声で電話での長いやりとりも聞こえていた。


つまり、あたしの分だけ玲くんは忙しくなったわけで。


それでも常に"我慢"の人の玲くんは、疲れ知らずの笑顔を見せてくれていた。


そういう処が大人だなと思うけれど、ただ……夜、玲くんが去る間際、いつも何か言いたげにあたしを見たり、切なそうに顔を歪めることがあるのが凄く気掛かりで。


しかし聞いてもただ微笑むだけで、「退院したらね」と頭を撫でられただけ。


玲くんは、毎日の診察を始め、採血、投薬調節、血圧等計測に至るまで、医者として仕事は生真面目な程きっちりとこなす。


だけどやはりあたしも女の子だ。


場所が場所だけに、傷痕の触診というのは嫌だった。


下着をつけない乙女の胸を、玲くんに露出させて喜ぶ趣味もなく。


ぎりぎりの処でパジャマの裾を捲って、チラ見せするのが精一杯。


しかも、胸の谷間から左下に向け、斜めに伸びた15cm程の傷痕は、そのグロテスクな色合いといい、人様に見せられる代物ではなかった。


それだけのリスクを陽斗が冒し、更にそれだけの手術だったということはよくよく判っている。


だけどそれを思えばこそ、陽斗の犠牲の上で成り立ったこの傷痕が、赦されない罪の証のような気がして、あたしに強い罪悪感を抱かせた。


傷痕は――


忘れてはならない罪の証。



"生かされた"あたしは、唯1人でその代償に罪を贖い続ければいい。


ずっとずっとあたしは1人で。


そう思っていたのに――。

< 47 / 59 >

この作品をシェア

pagetop