いばら姫と王子様 ~AfterDays~
やはり女の子だ。傷の有様を気にしていたんだ。
しかも彼女の心臓は特殊だ。
傷痕を消すことを提案した僕に、芹霞は首を横に振った。
「玲くん、あたしは忘れてはいけないの」
芹霞の命は、彼によって支えられたものだと。
真っ直ぐな瞳。
芹霞の命は櫂によって繋ぎ止められ、そして陽斗によって継承された。
事情を知っているくせに僕は、芹霞の中枢に至れない。
僕はただ見ているだけで。
僕以外の男が、芹霞を深く強く支えていく。
「ねえ芹霞。その傷、誰にも触れさせないでくれないか」
思わず口にしてしまった言葉。
「櫂にも見せないでくれないか」
芹霞は怪訝な顔をした。
僕は卑怯だ。
白衣を着て、"男"の顔で我儘を言っている。
「医者の僕は君を卑屈にはさせない。そんな傷、見慣れているよ」
例え他の男が芹霞を護った証であっても。
「ねえ、芹霞。僕だけにちゃんとその傷を見せてよ。僕は君の担当医だろ?」
それは懇願のように。
お願いだ、芹霞。
僕だけに。
他の男ではない、僕だけに。
君の特別を頂戴。
君が大事にする"幼馴染"という関係にもなれず、君の命を内部から支える"別格"にもなれず、共に寄り添う関係から僕だけ遠ざかっているような悲しみを少しでも和らげたいんだ。
「……玲くんのスケベ」
芹霞は恥ずかしそうに俯いた。
「芹霞、医者にスケベはないだろう?」
軽く笑いながら、目を泳がせる僕に芹霞は気づいていない。