桜色の糸*完結
「綺麗…」
綺麗な顔で寝ている彼に音をたてずにそっと近づく。
艶のある黒髪、整った眉、高い鼻、形のよい唇。
一瞬で目が奪われた。
--もっと近くで見たい。
欲に負け、寝ている彼の右横にしゃがみ込みよく見えるようそっと顔を近づかせる。
その瞬間、風が強く吹き驚き目を閉じた。
風が止み、目を開けると地面に落ちる花びらと、漆黒の黒い瞳が視界に入った。
引き込まれそうな漆黒の瞳に目が逸らせず、彼の瞳を見たまま固まっていると
「--誰?」
形のよい唇が動き、寝起きで掠れた声が聞こえた。
「あっ、私は、高橋葵…です…」
綺麗な彼に見つめられ、ドキドキと胸が高鳴る。
緊張し震える声で自分の名を彼に教えた。
彼の瞳に写っていたくて…
彼の声が聞きたくて…
彼の名前が知りたくて…
「--あなたは?」
緊張で震える手を両手で握り言葉を発する。
芝生の上に横になっている彼、その彼を見ると胸が暖かくなる。
--この感情は、なに…?
初めての感情に戸惑う。
「藤森 心…」
彼の声変わりのしていない高い声。
ドクンッと胸が高鳴った…