桜色の糸*完結
「心、凄い色に染めたな。」
ファミレスで髪を染め終わるのを待っていた一樹が、向かい側の席に座った俺に笑顔で「似合ってる」と言った。
「サンキュ…」
ファミレスから窓の外を見るとガラスに写った俺の顔。
見慣れた顔に違和感があるのは髪を染めたから。
美容室に着き、何色に染めるか聞かれた俺は迷う事なく
"白っぽい金色の髪"
と伝えた。
染め終わった髪を見て思い出されるのはやっぱり葵の姿で、気分転換するはずが未練がましい行為になってしまった。
それでも他の色に直そうとは思えなかった。
接点がなくなった葵と何か共通するものが欲しかった。
俺は寂しかったんだ。
葵を失って寂しさを紛らわすために喧嘩をし、女を抱く。
髪を染め新しい自分になった俺は今夜だけ葵を思い出しながら寝ようと決めた。
葵と寝たセミダブルのベッドで…
そしてまた、明日からはいつもの俺になる。
それは葵が隣に帰って来ない限り代わることはない。
--今の俺には何もない…
だから周りを利用するだけ利用してやる。