桜色の糸*完結
「葵!飛行機の搭乗時間よ!!」
賑わう飛行場で母は声を荒げ言う。
「うん、行こうか…」
搭乗口に向かうために席を立った私に
「葵…本当にいいの?」
遠慮がちに話し掛ける母。
そんな母に「なにが?」と笑顔を向けた。
「今日のこと誰にも言ってないんでしょ?」
「---う、ん…」
「未来ちゃんとか藤も「お母さん!」」
お母さんの声を遮った。
「未来にはちゃんと連絡するから大丈夫だよ。」
笑顔を絶やさずに言う私に母は
「ならいいんだけど…」と言った。
搭乗口へ母と肩を並べ向かう。
搭乗口の前で係りの女性にチケットを渡した。
チケットを受け取り飛行機に乗り込もうとした時、フッとロビーの方へ振り向いた。
私が育った日本。
今ここで飛行機に乗ったら何年も帰ってこれない。
日本にいればしんちゃんの姿を見かけるかもしれない。
だけど、今から行く国にはしんちゃんはいない。
気持ちが揺らぎ、搭乗口の前で立ち尽くしてた。