桜色の糸*完結





「葵!飛行機の搭乗時間よ!!」


賑わう飛行場で母は声を荒げ言う。


「うん、行こうか…」


搭乗口に向かうために席を立った私に


「葵…本当にいいの?」


遠慮がちに話し掛ける母。
そんな母に「なにが?」と笑顔を向けた。


「今日のこと誰にも言ってないんでしょ?」


「---う、ん…」


「未来ちゃんとか藤も「お母さん!」」


お母さんの声を遮った。


「未来にはちゃんと連絡するから大丈夫だよ。」


笑顔を絶やさずに言う私に母は
「ならいいんだけど…」と言った。


搭乗口へ母と肩を並べ向かう。
搭乗口の前で係りの女性にチケットを渡した。


チケットを受け取り飛行機に乗り込もうとした時、フッとロビーの方へ振り向いた。


私が育った日本。


今ここで飛行機に乗ったら何年も帰ってこれない。


日本にいればしんちゃんの姿を見かけるかもしれない。


だけど、今から行く国にはしんちゃんはいない。


気持ちが揺らぎ、搭乗口の前で立ち尽くしてた。


< 97 / 101 >

この作品をシェア

pagetop