さよならさえも、下手だった
そんな人に付いて来たんだな。
改めて自分の無鉄砲さに感心する。
さっきはあの檻を抜けだすのに精いっぱいで、それどころじゃなかったから。
「風呂、出たのか」
こくりと頷き、服を指差してまたお辞儀をする。
少し間があったものの夜十はそれを理解してくれたようで、
「…ああ、気にするな。
俺も、風呂入ってくる」
意思の疎通ができてほっとしたのも束の間、彼は私の方を振り向くことなく背を向けて呟いた。
「逃げてもいいんだぞ」
まるで独り言のように何気ない言葉は、大きく私の心をかき乱した。
刹那さんがいたときとは違う緊張が、私を襲った。
逃げるなんて考えは最初からなかった。
だって自分から付いて行ったのは私なのに。