さよならさえも、下手だった
夜十:決心と迷い
風呂から出ると、音都はまだそこにいた。
絶対に逃げていると思ったのに。
目を閉じて眠っている音都を見て、息が詰まる。
「なんでまだいるんだよ…」
発した声は、自分でも驚くほど弱々しかった。
普通は逃げるだろ。
自分から好んでこんな危険な目に遭おうとは思わないだろ。
逃げろよ。
じゃないと俺はいつかお前を殺さないといけない。
濡れた髪を適当に拭いて、寝ている音都の隣に腰掛ける。
シーツの上にこぼれるようなその髪をなでようとして手を引っ込めた。
左目が疼く。
炎がじりじりと燻ぶるような嫌な痛みが振りかかって来る。
上げようとした悲鳴は、隣に音都がいたから呑み込んだ。