さよならさえも、下手だった
段々男の人の顔が険しくなってくる。
でも、逃げてどこに行けばいいの。
逃げた後も、生きていける保証はないのに。
私は男の人を見上げる。
黒い髪を無造作に後ろでくくっていて、左目は長い前髪で隠れていた。
この人に付いていったらどうなるだろう。
そんな考えが頭をよぎって、次にはもう彼の袖をつかんでいた。
「何」
眉間にしわを寄せていかつい顔で睨まれたけど、私はそんなことじゃひるまない。
だって、もっとひどいことならいっぱいされてきた。