さよならさえも、下手だった






「音都?」


頭上から落ちてきた声で、私は固くつぶっていた目を開ける。

ベッドの上で抱きこむように丸めていた体の緊張が、ほんの少し解けた。

「大丈夫か」


変わらない無表情。
でもそんな風に優しく声をかけてもらったことは本当に、本当に久しぶりで。

また涙が出そうになる。


だって私は醜い人間で、夜十の側になんているべきじゃなくて。

頭の中で様々な思考がぐるぐる駆け回るけれど、それらを口で伝える方法を私は持ち合わせていない。


「…音都?」

ふわり、と大きな掌が私の頭に乗る。
あんまりにも慣れないことに思わずびくりと体を縮めると、彼もまた驚いたように手を引いた。

一瞬灯った温もりが、急に色を失くす。


< 43 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop