さよならさえも、下手だった


ふわりと私を抱きしめてくれた腕には、確かに温かみがあった。

うれしいと思わなくてはいけない。

哀しいなんて、思ってはいけない。


どれだけ追いかけても、殺し屋としての夜十は私の前から去ってしまった。

ごめんね。


ごめんね、夜十。


「音都…」

泣くなとささやかれて震えた胸が、静かに悲鳴を上げた。

私の傷口は手がつけられないほど広がっている。
何度も何度も繰り返し同じところをえぐられた傷跡は、もうふさがることはない。


涙はそのまま流れ続け、私の頬を濡らしていく。

その水滴が夜十の首筋を伝って落ちていく様を、嗚咽を上げることもなく眺めていた。


ただ無表情に、ただ冷酷に。

人形のように、私は泣いた。




< 46 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop