さよならさえも、下手だった
夜十:悪役とヒーロー
「やめとけ。おもちゃじゃないんだ」
銃を手に取ろうとしていた音都の顔は、真剣そのものだった。
明らかに、銃をおもちゃだと思っている様子ではなかった。
音都から銃を引き離すと、彼女は眉を哀しそうに下げてうつむいた。
そうかと思えば、その顔がどんどん険しくなっていく。
始めは頬が少し赤く上気し、その次には凍りつくような青い顔で、
そして――。
「音都!!」
頭を抱えて目をぎゅっとつぶっていた音都の顔がみるみる血の気を失って真っ白になっていき、ぐらりと傾く。
ベッドのスプリングが、ぎしりと嫌に弾んだ。
それは同時にそこにかかった重みを示している。
体を支える力を失ってそのまま倒れれば、ベッドにかかる荷重は相当なものだろう。
「大丈夫か、おいっ」
声をかけても音都は動かない。
耳をそばだてて感じ取った呼吸は虫の息のように細く頼りなかった。
どうしていきなり、こんな風に。