さよならさえも、下手だった
旭が高らかな笑い声を上げる。
狭苦しい一人用の部屋に、その笑い声はうるさいぐらい響いた。
「こりゃあいい」
その瞬間、旭の目が氷のように鋭くとがった光を放つ。
見つめられて、息が詰まった。
刹那とはまったく違う威圧感。
上から押さえつけるんじゃなく、同じ目線からじわりじわりと追いつめてくるような。
「やっぱりお前は落ちこぼれだ、夜十」
「何を…」
そう言って旭が今度は音都の方へ視線を移す。
「依頼人の気持ちひとつ汲み取れちゃいない。
こいつはこんなに、殺してほしそうな眼をしているのに」
「え…?」
音都の方を見て、言葉を失う。
殺されそうになったというのに、首を絞められていたというのに。
彼女はかけらも怖がっている様子はなかった。
それどころか満足げな表情さえ浮かべていた。
殺してくれと、全身で語っていた。