さよならさえも、下手だった
「でもお前の願いは叶えてやれない」
殺してたまるものか。
誰かに殺させてたまるものか。
生きろよ。
お前には生きてほしいんだ。
それは俺の勝手なエゴでしかないけれど。
「苦しいかもしれないけど生きてくれ」
頼むから。
そっと体を浮かせて音都を見下ろすと、彼女は大きな目を丸くして俺を見上げていた。
不意に張り詰めていた緊張感がほどける。
振り向くと旭が脱力しきった様子で手をぶらつかせていた。
「あーあ。ほんと、バカだよなぁ」
さっさと殺した方が、楽だったのに。
それだけ言い残して彼は、こじ開けたドアをくぐって帰って行った。
朝の澄んだ空気が、俺の肺に染みわたっていく。
そうして俺は音都の方に向き直る。
「…聞かせてくれるか」