さよならさえも、下手だった
私よりもずっと高い背。
目を合わせるだけでも一苦労だ。
「俺は、察しの通り殺し屋だ。名前は夜十(ヤトオ)。偽名だがみんなそう呼ぶ。
お前は確か、片桐音都(カタギリ オト)だったな」
どうして知っているんだろうと首を傾げると、夜十はさっきの紙をちらつかせた。
「殺す奴の情報は大抵事前に配布される。
まあ、声が出ないってのは…予想外だったな」
その言葉に少し傷ついてうなだれると、彼はその紙を破り捨てた。
バラバラになって、散らばって、落ちていく。
地面に落ちた私の情報の欠片は、冷たい風がさらっていった。
黒ばかりだった闇が、少しずつ白んでいく。
「付いてこい、音都。面倒見てやる」
私の顔に、笑みが浮かぶ。
彼の顔は依然として変わらなかったけれど、それでもいいと思った。
こうして籠の中の鳥は密猟者と共に、一歩前へ。