さよならさえも、下手だった
孤児院にあった本の中に出てくる両親の存在、親友の存在、恋人の存在。
心の底から信頼できる人がいるというのはどんな気持ちだろう。
ずっとそんな人が現れることを夢見ていた。
8歳の時、そんな私にも里親の申し出が来た。
「音都ちゃん、お手紙よ」
先生が私に小さな封筒を手渡す。
淡い水色にレースの飾りが施された品のいい封筒の中には一通の手紙と、おそらく差出人だろう夫婦の写真が同封されていた。
少し前に孤児院にやってきた夫婦だ。
何だか私をいたく気に入ってくれたようで、よく声をかけられたのを覚えている。
とても高価そうな服を身につけているのを見て、自分とは縁遠い人たちだと思ったことも。
あの人たちが、私の里親に?