さよならさえも、下手だった
小さなリュックひとつに簡単に収まってしまう荷物を背負って、私はある冬の寒い日に孤児院を卒業した。
迎えに来てくれた夫婦と一緒に車に乗って家まで向かう間、得体がしれないほどのうれしさが私を支配した。
みんなには迎えなんて来ないのに、私の所には来てくれた。
みんな独りぼっちなのに、私はもう独りぼっちじゃなくなった。
ずっと欲しかった、「両親」ができた。
優越感と満足感に浸かった私の心は、それはそれは醜いものだったことだろう。
だけどそれは鬼ごっこで他の人にタッチして鬼から解放されるような、
かけっこで一番に輝いた時のような。
そんな、無邪気なものだった。