さよならさえも、下手だった
「もう私たちは、あなたを他人だとは思えない。
…ねぇ、お願いがあるの」
首を傾げたまま背筋を伸ばして座っていると、
「君には今日から、”音都”ではなく”音”として生きてほしい」
どうして。
どうしてそんなことを言うの?
それじゃあまるであなたたちは私を養子にしてくれたんじゃなくて、娘の分身を見つけたみたいだわ。
違うでしょう?
私のことが好きだから、私を愛してくれたから、この家に招いてくれたんでしょう?
ねぇ、そう言ってよ。
「愛してるわ、”音”」
違う。
こんな愛が欲しかったんじゃない。
本の中に出てくるような――、あんな幸せが欲しかっただけなのに。