さよならさえも、下手だった
そう思ったんだよ、夜十。
だから何もためらわなくていいの。
私のすべてを書きとめたメモ帳はページが全部埋まってしまって、もう言葉を重ねるスペースはなかった。
本当はもう、こんなことをしなくてもいい。
大声で笑って、泣いて、怒ればいい。
だけど今でもやっぱりそうできないのは、”音”を演じることが私を生かしている証。
顔を上げるといつも以上に神妙な顔つきで夜十は私を見つめていた。
「音都…」
目頭が熱くなるほど切なくて甘い声で、私の名前を呟いた。
夜十に名前を呼ばれるたび、うれしかった。
だって夜十は私を”音都”として見てくれる。
代わりの人形なんかじゃない私を見てくれる。
彼からもらった無償の優しさは私にとって信じられないほど貴重で、大切なものだった。
ひとつも、取りこぼしたくないぐらいに。