さよならさえも、下手だった


久しぶりに、言葉を発したいと思った。

そう思うのは何年ぶりのことだろう。


だけど固く封印された声は簡単にはよみがえらない。

本当はそう思っているだけで、声を出すのが怖いからかもしれないけれど。


「メモ帳、無くなったな」

ページの裏も表もびっしり文字が書かれたメモ帳を、夜十がパラパラとめくる。
もう書くものが無いから、しゃべれと言われるんだろうか。

心の中で決意を固めていると、彼はおもむろに立ち上がった。


「買ってくる」

身構えていた私は、拍子抜けしたように口をぽかんと開けた。

それを見た夜十が、怪訝そうに眉をひそめる。

「どうした?」


しゃべれって、言わないの?


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