さよならさえも、下手だった
「何を手こずっている」
どこからともなく聞こえた声。
ほんの少し耳にするだけで全身が麻痺してしまいそうな圧力を持った声。
そしてその声の主は、俺たちのすぐ近くまで迫っていた。
「いくら落ちこぼれと言っても遅すぎる。
…愛しているのだろう、その娘を」
「…っ」
相手の名前を口にすることすら憚られて、俺は口をつぐんだまま立ちすくんでいた。
逃げろ。
本能がそう叫ぶ。
逃げろ。
音都を連れて。