後ろの少年
妻が僕のことを避け始めたのはいつからだっただろう。


良哉が生まれたばかりの頃は、仲の良い夫婦と言って間違いなかったと思う。


赤ん坊の良哉の頬を指で押して、いつか三人で酒が飲めるようになったら良いななんて言っていた。
 

だけど、妻は良哉のことを忘れ始めたのだ。


同時に、僕が誰かも分からなくなったようだった。


家の隅で小さく丸まって、時々音をさせたと思ったら僕が開けたカーテンを閉めていた。


「明るい方が良いだろうに」
 

僕はつぶやくと、目じりにしわを作って笑った。


その様子はとても気味が悪かった。


妻のことを気味悪いだなんて、人には言えなかった。


そんな軽薄な男だと思われたくなかった。


でも、妻は僕が好きだったあの妻ではなくて、ただの見知らぬ不審者のように感じられた。


妻自身、僕を見ては知らない人が家にいると言って、通じてもいないおもちゃの電話に震えた声で話していた。
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