後ろの少年
秋穂の言葉は僕の心を少し軽くしてくれたけれど、その涙は僕には重かった。


僕は妻と息子と、恋人を三人背負って生きていかなければならないのだろうか。


そんな風に思った。
 

誰も背負うなんてしたくない。


かつて愛していた妻も、面倒をみてもらう変わりに抱いている恋人も、可愛いはずの息子もどれも投げ出したかった。


「やめてくれ」
 

嫌だ。


置いていかないでと言った良哉の手を離し、叩いた僕は、目の前で自分の息子が階段から落ちていくのを目にした。


「守のせいじゃないよ」
 

秋穂はそう言うけれど、僕以外の誰のせいだというのだ。


今、良哉が階段の下で大声をあげて泣いているのが僕以外の誰のせいだと。


「嫌だ。パパ。行っちゃ嫌だ」
 

良哉のこんな大きな声を聞いたのは初めてだった。


生まれた時だってこんな大声じゃなかった気がする。
 

悲しくて寂しくて仕方のない声だった。
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